生涯福祉研究科 生涯福祉専攻

研究科長・教授

六波羅 詩朗 Rokuhara Shiro

専門分野について

私の研究領域は、現代社会における「生活問題」という言葉で表現できるような人間の一生涯に生じる多種多様な生活上の諸問題の分析・解決方法を考えることです。例えば、「社会保障」という制度をイメージすると、子どもに対する手当、生活困窮者に対する保護、失業者に対する手当や就労支援、誰でもが経験する疾病に対する医療サービス保障、老後の生活を保障する年金給付や介護保障など、多様な問題に対するサービス提供や経済的給付・支援などが考えられます。これらの制度全体を「社会保障」と表現しますが、その中心的な考え方は、「社会保険」と「社会扶助」(公的扶助)に大別され、生活を保障するシステムとしてどのような視点から制度設計を考えるのかということ、そのことが私の研究の守備範囲ということになろうかと思います。

これらのことは、わが国に限ったことではなく、近年はあまり使われなくなった言葉ではありますが、「福祉国家」という資本主義社会での解決すべき課題や目標にされていた内容がこれに該当します。近年は、「貧困」、「不平等」、「ソーシャルインクルージョン」といった多様な表現方法によって、従来の社会保障、社会保険、社会福祉という表現を使わずに、社会的に生起する諸問題の解決を考える学問体系に変化してきています。 大学院では、このような学問的な変化を通して新たな問題への対処とその方法について、研究するべき基本的知識や研究方法を学ぶことを目標としています。

研究における多様な視野の重要性

私が担当している科目は、「公的扶助」という科目です。これまで述べてきた研究の領域との関わりから考えると、国家が「生活困窮」の基準を示して、これ以下で生活する人の「最低生活」を税金で保障するという考え方と簡単に説明することができると思います。歴史的には、「救済」という言葉が使われていましたが、このような考え方から「保障」という考え方に変化したわけですが、典型的には第2次世界大戦以後であると言えるでしょう。しかし国家が、生活困窮状態にある人を助けるという考え方に着目すると、その歴史はかなり昔の時代までさかのぼることが知られていますし、そのような歴史的な視点こそ社会科学的な視点としての重要性を持っています。 このような歴史的視点から物事を考えることも大切であり、現在のさまざまな制度が、どのような歴史的な経緯を経て発展してきたのかを考え、そこから、現代的な意義を考察することも大切でしょう。このように考えると、研究方法、問題の分析の視点ということを常に意識しておくことが必要です。私は、自分なりの「問題意識」を持って学ぼうとする姿勢を大切に、大学院で学ぶ学生の方々に研究の一端を少しでもサジェスチョンすることができればと思っています。