言語文化研究科 日本語・日本語教育専攻

専攻主任・教授

池田 広子 Ikeda Hiroko

日本語教師教育について

研究について
日本語教育の主な研究領域には言語学と応用言語学があります。私はこのうち応用言語学を専門にしています。一口に応用言語学と言っても、さまざまな分野が存在しますが、私が専門に研究しているのは、教師教育や日本語教授法です。近年のグローバル化に伴い、日本語教育の現場はこれまで以上に複雑化してきています。例えば、日本語学習者は、就学生や留学生に加え、外国籍の子ども、医療・介護を仕事とする外国人など、多様化しています。一方、このような学習者に応える日本語教師の経験や価値観もさまざまで、教え方やアプローチは一様ではありません。さらに、アジアを中心とする海外では、日本語学習者が増加しているにもかかわらず、教員・教材不足、教員の質の向上が指摘され、重要な問題になっています。
では、どのように教師を支援し、教師研修をしたらよいのでしょうか。私が近年提案している日本語教師研修の一つに「ラウンドテーブル型教師研修」があります。これは、4~5名程度の小グループの中で報告者がじっくり時間をかけて自らの実践を報告し、他の参加者が丁寧に聴き合うことで省察を深める学習方法(三輪2009)です。実際には、実践を協働で省察・再解釈しながら学びを継続する中でコミュニティをつくり、他のコミュニティと繋がっていくことを大切にしています。ここでは、成人学習者の視点や成人の学びの特徴を踏まえています。こうした研修は、教師のエンパワーメントに着目した研修としても捉えることができます。
日本語教師教育における枠組みや基本的な考え方は、1980年頃から本格的に始まったのですが、今日では省察的実践や教師の成長、自己研修型教師だけではなく、学び合う教師コミュニティという考えを内包しながら進んでいると言えるでしょう。
私は上記の活動と実証的な研究を進めるために、仲間とともに研究会(「学びを培う教師コミュニティ研究会」https://manabireflection.com/)を立ち上げ、現在国内外(国内年2回、海外1回)でラウンドテーブル型日本語教師研修を行っています。また、同時に科研プロジェクトの一環として本研究から得られる参加者の学びや運営者側の学びを追究しています。日本語教育に関わりがある方でしたら、どなたでも同日本語教師研修に参加できますのでぜひご参加ください。

授業について
私が担当している「比較言語教育」という授業では、1980年代から現在までの言語教育の動向を理解しながら各言語教育を比較する力をつけることを目指しています。具体的には、主体的な学び、学習者中心の学び、協働学習、日本語教師教育、成人学習論、バイリンガル教育、各国の言語教育事情などを授業で取り上げています。これらの中でも協働学習、省察的実践者の理論的枠組み、成人学習論の考え方は、グローバル時代に対応するために重要な考え方だと言えます。そのため、理論や考え方を論文を通して理解するだけではなく、理論を踏まえた実践も取り入れながら授業を展開しています。一方、それぞれの言語教育を理解し、考察しながら、言語教育に通底するものは何か、その本質は何かなども考えていきます。こうした考える時間を共に創り上げていく中で、大きな発見があり、さまざまな価値観に触れることがあります。これらは表面的な理解とは異なり、学びの醍醐味であるとも言えます。
IT時代を迎え、これからの日本語教師は知識や技術を身につけるだけでなく、主体的に考えていく力や省察する力、仲間と協働し、柔軟に対応していく力がますます求められていくでしょう。そのためには、言語教育の全体を見渡し、そこから考えていくことが必要になると考えます。授業ではこれらの土台を培っていきたいと考えています。