外国語学部

日本語・日本語教育学科

Department of Japanese and Japanese Language Education 新宿キャンパス

グローバル・ナレッジシリーズ

第35回「オーガニック食文化を通じたサスティナブルな社会づくりをめざす」

7月26日(金)、日本語・日本語教育学科専門科目「国際理解教育」の授業に、株式会社オーガニッククルー代表の森敏氏をお迎えし、食を通じた持続可能な社会づくりを目指すというヴィジョンを持つ同社での取り組みについて、ご自身の米国でのご経験とあわせてお話しいただきました。
森氏はもともと調理師としてヨーロッパなどで経験を積んだのち、2008年に立ち上げた同社を拠点に、環境・人・健康に配慮したサスティナブルな社会の構築を目指して、オーガニック専門セミナー・交流会の企画運営事業、有機食品(農産物・加工食品)の卸・販売飲食店経営などを行うとともに、神田にある「サスティナブルキッチンROSY」というオーガニックレストランの経営者として、日々食を通じたメッセージを発信しています。

森氏はまず、最近多く取り上げられるSDGsで掲げられているような持続可能な社会づくりに関連し、地球規模の問題をイメージするよりも、我々が日々口にする食べ物について、何を選び、残ったものをどう処理し、さらには食を含めどういう生活をするのかについて考えることが、実際の環境問題の解決には不可欠であることを強調されていました。そのうえで、レストランという食の場も、持続可能な社会をつくるためのコミュニティとしてとらえることが可能であり、さまざまな人が交流し、食という営みを通じて互いの理解を深めたり社会のあり方を考えることを、森氏自身レストラン経営の理念としてきたとのお話がありました。

続いて、森氏のこれまでの実際の取り組みのモデルとなった米国オレゴン州のポートランド市について、ご自身の経験と絡めたお話がありました。米国でも最も環境に配慮したまちづくりを行っている都市として知られるポートランドでは、まちと農地が近く、新鮮な食材にひかれ腕利きのシェフたちが集まるだけでなく、化学肥料を使わないオーガニックな栽培法による野菜などの食材が当たり前となっていること、若者の新規就農をすすめる制度が整っていることなどから、地産地消を重視し地元の食材を優先的に消費しようという消費文化が根付いているとのことです。さらに、多様な背景を持つ人々が互いを尊重し合う社会的風土、生産性よりも自分たちがやりたいことを追求することを奨励する気風が多くの志ある生産者を育てていること、環境面ではGo Boxというテイクアウト用の容器のリサイクルプログラムが民間主導で行われたり、生ゴミの肥料化を市が政策として行うなど先進的な取り組みがなされていることも紹介されました。

消費とは一つの投票であるといわれるとおり、食材をどの生産者から仕入れるかなど、消費とはライフスタイルの表現だと話す森氏は、ポートランドで出会った人々と協力して日本での事業を立ち上げる際に掲げた方針の一つとして、互いに顔の見える生産者と消費者の関係を指すFarm to Table の重要さを指摘します。コミュニティーレベルでオーガニック農家を支える体制が整っているポートランドでは、消費者は安全な食材を選べ、農家は安心して野菜を作れるのに比べ、有機農業にあてられる耕地が1%に満たないといわれる日本では、今後農業の担い手がますます減る中で、命を支える食べ物を安心できるかたちで確保することが難しくなっていくことが予想されるとのお話がありました。
携わっている人々が楽しみながら行えることが、実践を持続可能なものとする上では何より大事だと話す森氏ですが、持続可能な社会をつくるという大きな目標達成のためには、まず日々丁寧につくった食材でつくったものを提供することで食の大切さを伝えていくことこそが第1歩であると最後に強調されていました。環境問題をはじめとするグローバルな問題へのアプローチを考える上で、まず身の回りのできることを探すことの重要性を教えていただいた授業でした。

学生の感想より
  • 森さんの食に対する情熱が伝わってきた。
  • 実際にポートランドに行き、自分の目でオーガニックの取り組みを見てみたいと思った。
  • 消費者は食材を選んで買うことで生産者を支援し、持続可能な社会づくりに貢献できると理解できた。
  • 環境や食材について考えることは、自分たち自身のことを考えることにつながるのだとわかった。社会を変えるには、まずは生活に対する意識改革から始めなければならない。