外国語学部

日本語・日本語教育学科

Department of Japanese and Japanese Language Education 新宿キャンパス

グローバル・ナレッジシリーズ

第33回「インドで鉄道敷設にあたる日本人女性コンサルタントの奮闘」

1月18日(金)、日本語・日本語教育学科専門科目「異文化接触論」で、株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル インド現地法人会長の阿部玲子氏をお迎えし、インドをはじめ海外の国々でインフラ整備などの大型事業のコンサルタントとして関わってこられた経験を中心に話していただきました。

まず、現在の仕事に携わることになるまでの経緯のお話がありました。阿部氏は、土木工事のエンジニアを目指し、日本の大学、大学院で土木工学を専攻し、当時女性にとって狭き門であった日本の建設会社に総合職として就職しますが、そこでも女性であるというだけで、やりたかったトンネル工事の現場に入れてもらえないなど、不本意な日々が続きました。
そこで、苦手だった英語を勉強し直してノルウェーの大学院に入学、学位を取って帰国し仕事に復帰したところに待っていたのが、台湾新幹線の工事現場での仕事でした。そこでの業務はすべて英語で行われるとのことで阿部氏が抜擢され、海外でのエンジニア、コンサルタントとしてのキャリアが始まります。その後、中国、カタール、ウクライナなどでの勤務を経て、12年前からインドの現場に関わることとなったそうです。

阿部氏は、インドでは複数の都市でのメトロの建設に立ち上げから関わり、現在も2023年開通を目指しているインド新幹線建設案件の立上げに尽力されています。インドの現場に関わる中で、さまざまな社会、文化背景の違いに遭遇したことが話されました。工事の行程についての考え方の違いなどと並んで、大きな違いの一つに安全管理に対する考え方の違いなどについてのお話がありました。
具体的には、自動改札機を設置したものの、当初は乗客の方々には使い方が分からず、混雑に拍車をかけてしまったこと、なるべく安全に手間とお金をかけたがらない現地の考え方があり、ヘルメットなどの装備の着用を徹底させるだけで苦労したこと、文字が読めない人が多いうえに互いに言語が違う労働者たちに現場で危険性を知らせるため、信号や絵などわかりやすい手段を用いるOSV(On Site Visualization: 安全の見える化)と呼ばれる手法をとっていることなど、日本では考えられない苦労があることが現場の写真を交えて話されました。

危機管理に対する認識の違いや、ビジネス上の常識と感覚の違いに、阿部氏自身戸惑うことが多い一方、日々の安全管理が自分たちのためにあると知って泣き出す労働者がいたというお話からは、現地の人々と丁寧にコミュニケーションをとることで信用を得ている阿部氏をはじめとする日本人スタッフの真摯な取り組みが感じ取られました。
大変パワフルに話してくださった阿部氏でしたが、「日本を持ち込まない、しかし日本を忘れない」ということばとともに、現地の人の立場でものを考えると同時に、日本人であることの意味を常に自覚することの大切さを強調されていたのが印象的でした。

お話の内容もさることながら、数々の壁を乗り越えて活躍されている阿部氏の姿に、自分のキャリアを考えるうえでのヒントと勇気を得た学生も多かったのではないかと思います。

学生の感想より
  • 阿部さんの女性として自信を持って仕事をする姿がかっこいい。
  • いろいろな手段で伝えようとする姿勢は教育にも通じると思う。
  • 日本人が当たり前だと思っていることは、異文化では一から見直して考えねばならないのだとわかった。
  • 考え方のギャップを埋めるには相手の背景にも配慮した丁寧なコミュニケーションが必要だと感じた。
  • 壁にあたっても諦めずに、前に進んでキャリアを積んできた阿部さんを見ならいたい。
  • 何事もやる気次第だと思った。