ユニクロやリーバイスなど、誰もが一度は目にしたことがあるブランドのジーンズ。その素材となる「デニム生地」を提供している企業をご存知でしょうか。
7月16日(金)の講義でご講演いただいたのは、デニム生地の国内シェア50%以上を占めるカイハラ株式会社の稲垣博章氏(執行役員 営業本部長)です。ご講演では同社の歴史とデニムの生産工程、さらには新たなデニム素材と新商品の事例をもとに、同社が挑戦したクラウドファンディング事業についてお話しいただきました。
「カイハラ」の授業レポート
カイハラ株式会社は1893年(明治26年)、広島県福山市にて創業した120年以上もの歴史を誇る企業です。デニム事業は50年以上も続けており、1本の糸から徹底的な素材の研究開発を行うなど「とにかく、良いもの」を追求し続けています。現在はジーンズで有名なLEVI'Sの501をはじめとして、ユニクロやスノーピーク、GAPやPRADAなど世界的に有名なブランドと取引しており、アパレル業界において知らない者はいないと言わしめるほどのグローバル企業(世界のKAIHARA)へと成長を遂げました。本科目にてご講演いただいた鎌倉シャツ、BEAMSなど、多くの企業がカイハラデニムを導入するとともに、さまざまな商品が販売されています。
また、ジーンズの色落ち(風合い)を楽しむ人も多いと思いますが、同社ではデニムの表情をコントロールするために、糸をあえて中心部まで染めないなどの絶妙な染色を行っているそうです。これらの染色機などハード面の機器を自社で内製化しており、生産の際に生じるトラブルをすぐに解決できるとともに、世界のどの企業にも負けない高い品質を保つことができています。このようにデニム素材の一貫生産を行うことで優位性を保有するという事業は研究者からも高く評価され、2007年には優れた競争力を持つ日本企業に表彰される『ポーター賞』を受賞するなど、まさに日本を代表とする優良企業となっています。
これだけ素材に強みのあるカイハラデニムですが、現状に安住せず、常に新商品を開発するべく失敗を繰り返しているそうです。年間で800~1000種類の生地を試作するとともに、エンドユーザーから商品の情報を収集することで共同開発を行うなど、常に挑戦を続けています。
これまでジーンズのイメージは「ゴワゴワとしている」「夏は蒸れる」「冬は寒い」というものでした。しかし同社は東レや旭化成とデニム素材を共同開発するとともに、さまざまな有名ブランドから機能性を重視したジーンズを商品化しています。たとえばユナイテッド・アローズやEDWIN、さらにはユニクロのヒートテックデニム(暖パン)や防風ジーンズなどを実際に履いたことのある人も多いのではないでしょうか。自分たちの知っているブランドとカイハラデニムがつながっていることを改めて驚かされるとともに、これまで抱いていたジーンズへのイメージが覆されました。そして今年になり24時間365日ずっと履くことができるほど快適な履き心地のジーンズを実現したそうです。このジーンズを自社ブランドとして商品化するためにクラウドファンディングを用いるなど、ジーンズ業界におけるイノベーションのダイナミズムを感じることができました。
同社は早い段階から水使用量の削減や再生綿を使用するなどのサステナブルな取り組みを行っており、自動車メーカー(トヨタ)や寝具メーカー(MARUNI)など他業種の企業とコラボすることで、カイハラデニムの新たな可能性を模索し続けています。さらに拠点となる広島の雇用促進や地域活性化へとつながる事業を行っており、SDGsの視点からも学びを得ることができました。
これまで講演いただいた企業はBtoC※1を中心とした事業を展開している企業が多く、ほとんどの受講生は同社のことを知らなかったのですが、アパレル業界におけるBtoB※2の重要性を知るとともに、これから就職活動を控える受講生にとって、業界・職種研究へとつながる貴重な回となりました。
(社会情報学科3年 今村、長谷部、余川)
※1)BtoC...Business to Customerの略で、企業が直接個人(一般消費者)にモノやサービスを提供するビジネスモデル
※2)BtoB...Business to Businessの略で、企業が企業に対してモノやサービスを提供するビジネスモデル